2026年10月10日

先日、特別養護老人ホーム「ケアタウン成増」で開催された、令和8年度 第2回CURE&CARE会議に出席してきました。
今回の会議では、東洋大学福祉社会デザイン学部教授の加山弾先生を講師にお迎えし、「重層的支援体制整備事業のねらいと実際」をテーマにお話を伺いました。
講義を通じて改めて考えさせられたのは、地域で暮らす方々の困りごとは、必ずしも一つの制度や専門分野だけで解決できるものではないということです。
医療、介護、福祉、行政、そして地域住民。それぞれが持つ力をつなぎ、支援を必要としている方の生活全体を支えていくこと。そのために、私たち医療・介護に関わる専門職には何ができるのでしょうか。
今回は、会議で学んだ重層的支援体制整備事業の考え方と、歯科医療の立場から考える地域連携についてお伝えします。
1.困りごとは、一つの分野だけでは解決できない
私たちは日々の診療の中で、さまざまな生活背景を持つ患者さんと出会います。
高齢になり、身体の機能が低下してきた方。認知症によって日常生活に支援が必要になった方。病気をきっかけに食事が難しくなった方。そして、患者さんを支えるご家族にも、仕事や介護、経済的な問題など、それぞれの事情があります。
例えば、独居の高齢者が食事を十分に取れなくなったとします。
歯が痛い、入れ歯が合わない、飲み込みにくいといった問題があれば、歯科医療による対応が必要です。しかし、それだけで問題が解決するとは限りません。
買い物に行くことが難しいのかもしれません。食事を準備する体力が低下しているのかもしれません。身近に相談できる人がおらず、生活上の困りごとを誰にも伝えられない状況かもしれません。
このような場合、歯科治療だけでなく、介護サービスや生活支援、栄養面の支援、地域とのつながりなど、さまざまな視点から考える必要があります。
重層的支援体制整備事業は、こうした複雑化・複合化した課題に対して、分野を超えた支援を行うための仕組みです。
高齢者、障害のある方、子ども、生活困窮者など、対象者ごとの制度や相談窓口を大切にしながら、それぞれの制度だけでは対応しきれない問題にも、地域全体で取り組むことを目指しています。
大切なのは、目の前の困りごとだけを見るのではなく、その背景にある生活全体を理解することなのだと感じました。
2.板橋区の重層的支援体制整備事業を考える
今回の会議で特に関心を持ったのが、板橋区における重層的支援体制整備事業の支援フローです。
この仕組みでは、相談窓口に自分から相談できる方への支援だけでなく、相談につながっていない方への働きかけや、複数の機関が連携して支援する体制、地域とのつながりをつくる取り組みなどが示されています。
重層的支援体制整備事業には、大きく分けて次のような機能があります。
包括的相談支援――まずは困りごとを受け止める
相談を受けた機関が、特定の分野だけに限定せず、幅広く困りごとを受け止めます。
例えば、介護の相談をきっかけに、同居する家族の障害や生活困窮など、別の問題が見えてくることもあります。
最初に相談を受けた機関だけで抱え込まず、必要に応じて専門機関や行政の相談窓口につなぐことが大切です。
アウトリーチ等を通じた継続的支援――支援を必要とする人のもとへ
困っていても、自分から相談に行けない方もいます。
ひきこもりや社会的孤立、心身の不調など、さまざまな事情によって、相談窓口につながること自体が難しい場合があります。
そのような方に対して、支援する側から働きかけ、本人の気持ちや状況に配慮しながら関係を築いていくことが重要です。
多機関協働――専門職や関係機関が一緒に考える
複雑な課題に対しては、一つの機関だけで対応するのではなく、関係者が役割を分担しながら支援を検討します。
板橋区の支援フロー図には「支援会議」と「重層的支援会議」が示されています。必要な情報を適切に共有し、支援の方向性や役割分担を整理することで、本人にとって必要な支援につなげていきます。
参加支援・地域づくり――人と人とのつながりを育てる
支援の目的は、困りごとを解決することだけではありません。
本人が地域の中で居場所や役割を持ち、人とのつながりを感じながら暮らせることも大切です。
地域の活動や交流の場につながる機会をつくること、誰もが孤立せずに暮らせる地域を育てることも、重層的支援体制整備事業の重要な役割です。
こうした仕組みを知り、地域にはさまざまな支援の入り口があり、それらをつないでいくことが重要なのだと改めて感じました。
3.訪問歯科だからこそ見える、生活の変化
私たち、たのしみ歯科は、訪問歯科診療を通じて、患者さんのご自宅や施設に伺っています。
訪問診療の特徴は、患者さんの生活の場で診療できることです。
歯や入れ歯の状態を確認するだけでなく、食事の様子や生活環境、ご家族の介護状況など、外来診療だけでは気づきにくいことが見えてくる場合があります。
以前より食事量が減っている。好きだったものを食べなくなった。口の中が乾燥している。入れ歯が合わず、食べられるものが限られている。
こうした変化は、口腔内の問題だけでなく、全身の健康状態や栄養状態、生活機能の低下と関係していることがあります。
さらに、患者さんを支えるご家族が疲れていたり、必要な介護サービスにつながっていなかったりすることもあります。
もちろん、歯科医療機関がすべての問題を解決することはできません。しかし、診療を通じて気づいた変化を、必要に応じてケアマネジャーや訪問看護師、医師、管理栄養士、地域包括支援センターなどにつなぐことはできます。
医療・介護の専門職がそれぞれの立場から患者さんを見守り、気づいたことを共有する。その積み重ねが、問題の早期発見や、より適切な支援につながるのではないでしょうか。
今回の会議を通じて、訪問歯科もまた、地域の生活を支えるネットワークの一員であることを改めて考えました。
4.「食べる」を支えることは、その人らしい生活を支えること
たのしみ歯科が大切にしている考え方に、「食べることは生きること」があります。
食べることは、単に栄養を摂取するための行為ではありません。
好きなものを食べること。家族と食卓を囲むこと。友人と食事を楽しむこと。自分の口から食べられる喜びを感じること。
そこには、その人らしい生活や、人とのつながりがあります。
高齢になると、歯を失ったり、入れ歯が合わなくなったり、飲み込む力が低下したりすることがあります。病気や入院をきっかけに、食べる機能が低下することもあります。
そのようなとき、歯科医師や歯科衛生士による口腔ケア、入れ歯の調整、摂食嚥下機能の評価に加え、管理栄養士による栄養面の支援や、医師・看護師・介護職との連携が重要になります。
例えば、食事中にむせるようになった方に対して、単に食事を柔らかくするだけでは十分ではない場合があります。口の中の状態、飲み込む機能、全身の健康状態、食事の環境などを総合的に考える必要があります。
そして、専門職として安全性を評価するだけでなく、本人が何を食べたいのか、どのような生活を送りたいのか、ご家族がどのような思いを持っているのかを丁寧に聞くことも欠かせません。
すべての方が以前と同じように食べられるようになるわけではありません。それでも、さまざまな専門職が協力することで、その人に合った食べ方を見つけたり、食べる楽しみを取り戻したりできる可能性があります。
「食べる」を支えることは、歯科だけで完結するものではありません。本人の生活を知り、地域の支援につなぎ、みんなで考えることが必要なのです。
5.制度を知ることから、地域で実践することへ
今回のCURE&CARE会議に出席して感じたのは、制度や仕組みを知ることと、それを実際の支援につなげることの両方が大切だということです。
どれほど優れた制度があっても、支援を必要とする人がその存在を知らなかったり、相談につながれなかったりすれば、十分に活用することはできません。
また、医療・介護・福祉の専門職がそれぞれの分野で一生懸命に取り組んでいても、互いの役割を知らず、必要なときに相談できる関係がなければ、支援が途切れてしまうこともあります。
だからこそ、日頃から顔の見える関係をつくり、困ったときに相談できるつながりを育てておくことが重要です。
そして、支援する側の都合や制度の枠組みだけで考えるのではなく、本人が何を望み、どのような生活を送りたいのかを中心に据えることを忘れてはいけません。
地域で暮らす方々の困りごとは、一つの専門職だけでは見えないことがあります。だからこそ、さまざまな立場の人が集まり、学び、意見を交わす場には大きな意味があると感じました。
6.地域の中で「食べる」を支える仲間を増やしたい
私たち、たのしみ歯科が目指しているのは、歯科医療を通じて、その人らしい生活を支えることです。
口の中を診ることから始まり、食事を考え、暮らしを知り、必要に応じて医療・介護・福祉の関係者とつながる。
その人の生活を知り、一緒に考え、「食べる」からその人の生活を支える。
これは、歯科だけで実現できることではありません。医師、看護師、介護職、ケアマネジャー、管理栄養士、行政、地域住民など、さまざまな人たちと協力することで、少しずつ形になっていくものだと考えています。
重層的支援体制整備事業は、複雑な課題を抱える人を地域全体で支えるための仕組みです。そして、その根底には、一人ひとりを孤立させず、誰もが自分らしく暮らせる地域をつくりたいという思いがあるのではないでしょうか。
今回の学びを、日々の診療や地域連携に生かしながら、私たちにできることを一つずつ実践していきたいと思います。
「ごはんがたのしみ」な毎日を、あなたと。
たのしみ歯科は、これからも地域の皆さんや医療・介護・福祉に関わる方々とつながりながら、「食べるを支える仲間」を増やし、一人ひとりの生活を支える取り組みを続けていきます。
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