2026年1月12日

「先生、もうこの人は食べられないんでしょうか?」
訪問診療の現場で、私は何度もこの言葉を聞いてきました。病院で誤嚥性肺炎を繰り返し、「もう口から食べるのは危険です」と言われた方。胃ろうや経管栄養を勧められ、不安な表情でご家族が相談に来られることも少なくありません。しかし、実際に口やのどの状態を詳しく評価してみると、「食べられない」と思われていた方の多くが、工夫次第で再び口から食べられる可能性を持っているのです。
たのしみ歯科が大切にしているのは、「人生の最後まで、口から食べる時間を守ること」です。食べることは、単なる栄養摂取ではありません。好きなものを味わい、家族と食卓を囲み、季節を感じる。その一つひとつが「生きている実感」そのものです。たとえ病気や障害があっても、「食べたい」という気持ちは消えません。その思いに、医療としてどう応えるか。それが私たちの原点です。
摂食嚥下とは、「噛む」「食塊をまとめる」「飲み込む」という一連の動作のことを指します。脳卒中、認知症、パーキンソン病、がん、加齢などにより、この機能は少しずつ低下します。すると、むせやすくなったり、食事に時間がかかったり、食後に痰が増えたりします。これが進むと、誤嚥性肺炎のリスクが高まり、「もう食べない方が安全」という判断がされるようになります。
しかし、ここで重要なのは、「どのように飲み込めないのか」を正しく評価することです。たのしみ歯科では、嚥下内視鏡(VE)を用いて、実際に食べ物や飲み物がのどを通る様子を直接観察します。これにより、どのタイミングで誤嚥しているのか、どの動きが弱っているのかを客観的に把握できます。その結果に基づき、食べ方、姿勢、食事形態、リハビリの方法を細かく調整していくことで、安全に食べられる道を探ります。
「食べられない」と言われた方が、再びプリンやお粥を口にできるようになり、やがて「マグロが食べたい」「家族と同じご飯を食べたい」と言われるようになる場面を、私たちは何度も見てきました。もちろん、すべての方が何でも食べられるようになるわけではありません。しかし、「まったく口から食べられない状態」と「少量でも味わいながら食べられる状態」とでは、人生の質は大きく違います。
たのしみ歯科では、在宅、介護施設、病院の病棟まで、どこでも摂食嚥下の評価と支援を行っています。医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、ケアマネジャーと連携し、その人の生活や価値観に合わせた「食べる医療」を組み立てます。例えば、栄養を優先したいのか、味や楽しみを大切にしたいのか、家族と同じものを食べたいのか。答えは一人ひとり違います。その想いを共有したうえで、医療としてできる最善を探します。
「もう年だから」「もう病気が進んでいるから」と、食べることを諦めてしまうのは簡単です。しかし、私たちは諦める前に、必ず「どうすれば食べられるか」を考えます。食べることは、最後までその人らしく生きるための大切な時間だからです。
たのしみ歯科の理念は、「ごはんが楽しみな毎日を、あなたと。」。摂食嚥下専門医としての知識と技術を活かし、人生の最後まで「食べるたのしみ」を支える歯科医療を、これからも地域の中で届け続けていきます。