2026年4月26日

先日、院長の齋藤が世話人をつとめる第8回いたばし在宅歯科医療勉強会が開催されました。
今回のテーマは「給食だけじゃない栄養士の仕事」。日々の診療や訪問の現場で顔を合わせている管理栄養士の方々が、実際にどのような視点で入所者と向き合っているのか、その奥行きを改めて感じる機会となりました。
「栄養士」と聞くと、献立作成や給食管理を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、老健施設で働く管理栄養士の仕事は、それだけにとどまりません。むしろ中心にあるのは「人の生活を支える仕事」です。
入所時には、体重や血液データだけでなく、食事の様子や日常生活の動き、これまでの病気の経過などを丁寧に見ていきます。そのうえで、一人ひとりに合わせた栄養ケアの計画を立てていきます。たとえば「むせやすい」「食事量が減ってきた」「好き嫌いが強い」といった小さな変化も見逃さず、食事の形や内容を調整していく。その積み重ねが、安心して食べられる環境をつくっています。
また、実際の食事の場面に足を運び、姿勢や食べ方、表情まで観察することも大切な仕事です。「今日はあまり進んでいないな」「この形態なら食べやすそうだ」そんな気づきが、次の一手につながります。机上の計算だけではなく、“目の前の人”に合わせて柔軟に対応していく力が求められています。
さらに印象的だったのは、多職種との連携です。医師、看護師、介護士、リハビリ職といったさまざまな専門職が関わるなかで、管理栄養士は“食”という視点からチームに参加します。たとえばリハビリの効果を高めるための栄養提案や、薬の影響を考えた食事内容の調整など、他職種とつながることでケアの質が大きく広がっていきます。
「食べること」は単なる栄養補給ではなく、その人らしい生活そのものです。季節の行事食やイベント食を取り入れることで、日々の楽しみや記憶を呼び起こすきっかけにもなります。食卓に並ぶ一品が、その人の人生とつながっている――そんな温かい視点が印象に残りました。
一方で、後半のディスカッションでは、ぐっと考えさせられるテーマが扱われました。「終末期の食支援をどう考えるか」です。
傾眠傾向が強くなり、必要な栄養量を口から摂ることが難しくなってきたとき、それでも食支援を続けるのか、それともどこかで区切りをつけるのか。この問いに、明確な正解はありません。
「食べさせてあげたい」という思いは、家族にとっても、医療者にとっても自然なものです。一方で、無理に食べることが負担になってしまう場面もあります。むせや苦しさを伴う食事が、その人にとって本当に望ましいのか――私たちは常に問い続ける必要があります。
では、やめると判断するのは誰なのか。医師なのか、家族なのか、それともチーム全体なのか。実際の現場では、誰か一人が決めるというよりも、関わる人たちが対話を重ねながら方向性を探っていくことが多いように感じます。そしてそのプロセスこそが、とても大切なのだと思います。
特に難しいのは、家族の思いとのすれ違いです。「少しでも食べさせてあげたい」という願いに対して、「今は無理をしないほうがいい」という専門職の判断がぶつかることもあります。そのときに必要なのは、正しさを押し付けることではなく、相手の気持ちに寄り添いながら丁寧に説明し、一緒に考えていく姿勢です。
食べることは、生きることと深く結びついています。だからこそ、その終わりに向き合うことは、とても繊細で難しい問題です。しかし同時に、その人らしさを最後まで大切にするための、大切な関わりでもあります。
今回の勉強会を通して、管理栄養士の仕事は「栄養を管理すること」ではなく、「その人の人生に寄り添うこと」なのだと改めて感じました。そしてそれは、歯科医療における食支援とも深く重なります。
「食べること」を支える仕事には、正解のない問いがたくさんあります。それでも、目の前の一人に向き合い、チームで考え続けること。その積み重ねが、きっとその人らしい時間につながっていくのだと思います。
これからも、こうした対話の場を大切にしながら、地域の中で「食べる喜び」を支える医療を育てていきたいと感じた一日でした。