2026年2月16日
先日、第四回いたばし在宅ケアカンファレンスに参加してまいりました。会場は 板橋区立文化会館。地域の医師、歯科医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャー、リハビリ職、行政関係者など、実に多くの多職種が一堂に会し、板橋の在宅医療をより良くしていくための議論が交わされました。
今回のテーマは「在宅療養者の適切な服薬について考える」。とくに高齢者医療の現場で大きな課題となっている“ポリファーマシー(多剤併用)”対策が中心でした。
■ ポリファーマシーの現実
高齢になると、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心疾患、骨粗しょう症、不眠、不安など、複数の疾患を抱えることが少なくありません。それぞれの疾患に対して薬が処方される結果、気がつけば10種類以上の薬を内服している、というケースも珍しくありません。
病院の先生からは、ポリファーマシーによって起こりうる問題について具体的なお話がありました。
・薬同士の相互作用
・副作用の増加(ふらつき、転倒、せん妄など)
・腎機能や肝機能への負担
・服薬アドヒアランスの低下
特に高齢者では、若い頃と同じ量でも薬が効きすぎてしまうことがあります。睡眠薬や抗不安薬、抗コリン作用のある薬剤などは、認知機能や転倒リスクに影響する可能性があるため、慎重な評価が必要です。
「薬は多いほど安心」ではなく、服薬開始後の変化をしっかりと観察することや、状態の変化にあわせながら「その人に本当に必要な薬は何か」を適時、見直す視点が重要であることを改めて学びました。
■ 認知症と服薬管理の難しさ
お年寄りセンターからは、認知症のある方の服薬管理の難しさについて報告がありました。
・飲んだことを忘れてしまう
・まだ飲んでいないと思い込み、重複して服用してしまう
・そもそも薬を拒否する
・家族が日中不在で管理が難しい
在宅療養では「処方する」ことよりも「きちんと飲めているか」のほうが大きな課題になることもあります。服薬が乱れることで、血圧や血糖が不安定になったり、症状が悪化したりすることもあります。
服薬管理ロボットの存在も紹介されました。いまは決まった時間になると音声で知らせ、正しい薬だけが取り出せる仕組みになっている機器もあるそうです。在宅医療は「人の力」が中心ですが、そこに「機器の力」を組み合わせることで、より安全で継続可能な支援ができる時代になっているのだと感じました。
■ 薬剤師による工夫と支援
薬剤師さんからは、現場での具体的な工夫が紹介されました。
・不要な薬の整理や減量提案
・大きな錠剤を小さな剤形へ変更
・粉砕や剤形変更の検討
・服薬カレンダーの活用
・一包化(1回分ずつまとめる)
たとえば、嚥下機能が低下している方にとっては、大きな錠剤は飲みにくく、誤嚥のリスクにもつながります。剤形を変更するだけで、安全性や継続率が大きく向上することがあります。
歯科の立場からみても、「飲みにくさ」は重要な問題です。口腔乾燥や義歯の不具合、舌の動きの低下など、口の状態が服薬に影響しているケースもあります。医科・歯科・薬科が連携することで、より安全な服薬環境を整えられる可能性を強く感じました。
■ 多職種連携の力
在宅医療では、ひとつの職種だけで完結することはほとんどありません。医師が処方し、薬剤師が管理し、看護師やヘルパーが服薬状況を確認し、ケアマネジャーが全体を調整する。そのなかで、歯科は「食べる」「飲み込む」という視点から関わります。
薬の問題は、さまざまな多職種の関わりの中で小さな変化を見逃さないことが大事で、だからこそ、顔の見える関係性がとても大切です。
■ 賀詞交換会での交流
カンファレンス終了後は賀詞交換会が開催され、病院や診療所、さまざまな事業所の方々と直接お話しする機会をいただきました。
普段は電話や書面でのやり取りが中心ですが、実際に顔を合わせて話すことで、お互いの考えや想いがより伝わります。「何かあればあの先生に相談しよう」と思える関係性こそが、地域医療の土台だと感じました。
在宅療養者を支えるためには、制度や知識だけでなく、信頼関係が不可欠です。今回のカンファレンスを通じて、板橋区の在宅医療のネットワークが着実に広がっていることを実感しました。
■ まとめ
在宅療養における「適切な服薬」は、単に薬を減らすことでも、増やすことでもありません。その人の身体状況、生活環境、認知機能、嚥下機能、家族のサポート体制などを総合的に考えたうえで、“その人にとって最適な形”を模索することです。
ポリファーマシー対策は、患者さんの安全を守る取り組みであると同時に、生活の質(QOL)を守る取り組みでもあります。
「最期までその人らしく暮らす」ために、地域で何ができるのか。
今回の学びを、日々の外来診療や訪問診療の現場に活かしながら、これからも多職種と連携し、板橋の在宅医療を支えていきたいと思います。