2026年5月14日

たのしみ歯科で訪問診療の仕事をしていると、「お昼ごはんってどうしているんですか?」と聞かれることがあります。外を回っている仕事というと、車の中で急いで食べたり、それぞれバラバラに済ませたりするイメージを持たれる方も多いかもしれません。
でも実際は、少し違います。
訪問診療の午前の予定が終わると、スタッフはクリニックに戻ってきて、スタッフルームで一緒に昼食をとることがほとんどです。午前中、それぞれの訪問先でいろいろな患者さんと関わり、慌ただしく動いていた時間から一転して、お昼のスタッフルームにはゆったりとした空気が流れます。
扉を開けると、「おかえりなさい」「今日はどうだった?」そんな何気ない会話が自然に始まります。診療のことを少し話すこともあれば、まったく関係のない話題で笑い合うこともあります。この時間は、ただ食事をするだけではなく、スタッフにとって気持ちを切り替える大切な時間になっています。
お昼ごはんのスタイルも人それぞれです。
朝、自宅からお弁当を持ってくる人もいますし、その日の気分で途中のスーパーに立ち寄って、お弁当を買ってくる人もいます。訪問先から戻る途中(だいたい行きつけのスーパーがあります)に、「今日もあそこのスーパー寄ってきたよ」と話しながらお弁当を持って入ってくる姿も、いつもの光景です。季節限定のお惣菜や、新しく並んでいたデザートの話で盛り上がることもあります。
不思議なもので、同じお店で買ってきても、それぞれ選ぶものには個性が出ます。しっかりお肉系のお弁当を選ぶ人、ヘルシーなお惣菜中心の人、お弁当のほかにデザートをひとつ添える人。そんな小さな違いに、その人らしさが感じられて、見ているだけで面白いものです。
スタッフルームにはコーヒーメーカーがあります。
食後にコーヒーを淹れる人も多く、ふわっと立ち上る香りが部屋いっぱいに広がります。忙しい午前を終えたあと、その香りに包まれると自然と肩の力が抜けます。
コーヒーを片手に少しだけぼんやりする時間。ほんの10分ほどでも、それが午後への元気につながります。訪問診療は移動も多く、体力も使う仕事ですが、こうした小さな休憩があることで、また午後も頑張ろうという気持ちになります。
そして、スタッフルームにはなぜかお菓子がよくあります。
誰かが買ってきたお土産だったり、ちょっとした差し入れだったり。机の上にそっと置かれたお菓子を見つけると、「これ食べていいの?」「どうぞどうぞ」と自然に会話が生まれます。
甘いもの好きなスタッフにとっては、この時間が密かな楽しみでもあります。チョコレートやせんべい、小さな焼き菓子。たったひとつのお菓子でも、みんなで「これおいしいね」と言いながら食べると、不思議と少し特別な時間になります。
訪問診療の仕事は、患者さんのお宅や施設へ伺い、その方の生活の場で診療を行います。外来とはまた違った責任や緊張感があり、一件一件に向き合う中で、スタッフもたくさんの気づきや学びを得ています。
だからこそ、お昼の時間はとても大切です。
午前中にあった出来事を共有したり、「あの患者さん、今日はよく笑ってくれたね」と嬉しかったことを話したり、「午後はどんなルートだっけ」と確認したり。短い時間の中に、仕事の連携と人とのつながりがぎゅっと詰まっています。
訪問診療は、患者さんの生活に寄り添う医療です。そして、その医療を支えるスタッフ自身にも、それぞれの生活があります。毎日のお昼ごはんという何気ない時間にも、その人らしさやチームのあたたかさが表れます。
外で頑張って戻ってきて、みんなでごはんを食べて、コーヒーを飲んで、少しお菓子をつまんで笑う。
そんな何気ない昼休みがあるからこそ、午後の訪問先でもまた自然な笑顔で患者さんに向き合えるのかもしれません。
訪問診療というと、専門的で少し堅いイメージを持たれることもありますが、その裏側には、こんなふうに人と人との日常があります。
食べることを大切にしている私たちだからこそ、自分たちのお昼の時間もまた、ささやかな「たのしみ」のひとつです。