2026年9月19日

― 年齢とともに変わる「口」を知る
「最近、食べにくくなった」
「口が乾くようになった」
「むせることが増えた」
「入れ歯が合わなくなってきた」
高齢の方とお話をしていると、このような声を聞くことがあります。
年齢を重ねると、歯だけでなく、歯ぐき、舌、唾液、口の中の粘膜、そして「噛む・飲み込む」といった口の機能にも少しずつ変化が起こります。
こうした変化は、単に「年を取ったから仕方がない」というものではありません。小さな変化に早く気づき、必要なケアや治療を行うことで、「食べる」「話す」「笑う」といった毎日の生活を支えることができます。
今回は、高齢者に起こりやすい口腔内の変化についてご紹介します。
① 歯が少なくなる
年齢とともに、むし歯や歯周病、歯の破折などによって歯を失うことがあります。
歯が少なくなると、食べ物を細かくする「噛む力」が低下します。その結果、硬いものを避け、やわらかいものばかりを選ぶようになることがあります。
最初は「肉が食べにくい」「野菜が噛みにくい」といった小さな変化でも、食べられるものが少しずつ限られていくと、食事の量や栄養のバランスにも影響することがあります。
そのため、歯を残すことはもちろん、歯を失った場合には、入れ歯などを使って「噛める状態」をつくることが大切です。
② 歯ぐきや歯周組織が変化する
高齢になると、歯周病によって歯を支える骨が減少していたり、歯ぐきが下がって歯の根元が見えていたりすることがあります。
歯の根元は、歯の頭の部分に比べてむし歯になりやすいため、これまでむし歯になったことが少なかった方でも、年齢とともに「根面う蝕」が問題になることがあります。
また、歯周病は痛みが少ないまま進行することもあります。
「痛くないから大丈夫」とは限りません。定期的に歯科医院で口の中を確認することが大切です。
③ 唾液が減り、口が乾きやすくなる
「口の中がネバネバする」
「水分がないと食べにくい」
「夜中に口が乾いて目が覚める」
このような「口腔乾燥」の症状も、高齢者に多くみられます。
唾液には、口の中を潤すだけではなく、食べ物をまとめたり、飲み込みやすくしたり、口の中を洗い流したりする役割があります。
唾液が少なくなると、食べ物がまとまりにくくなり、飲み込みにくさにつながることがあります。また、むし歯や口腔粘膜のトラブルにも注意が必要です。
なお、口の乾燥は年齢だけが原因とは限りません。服用している薬の影響や全身状態など、さまざまな原因が考えられます。
「年だから仕方ない」と決めつけず、気になる場合は歯科医師に相談しましょう。
④ 舌の力や動きが低下する
高齢になると、舌や唇など、食べるために必要な筋肉の力や動きも少しずつ変化します。
舌は、食べ物をまとめて喉へ送り込むために重要な役割を担っています。
舌の力が弱くなると、食べ物をうまくまとめられない、口の中に食べ物が残る、飲み込みに時間がかかる、といった変化が出てくることがあります。
また、舌や唇の動きは「話すこと」にも関係しています。
「以前より話しにくくなった」
「滑舌が悪くなった」
という変化も、口腔機能の低下を考えるきっかけになります。
日本老年歯科医学会では、加齢による「感覚」「咀嚼」「嚥下」「唾液分泌」などの機能低下を「口腔機能低下」として捉え、早期の気づきと対応の重要性を示しています。 (日本老年歯科学会)
⑤ むせやすくなる
「お茶を飲むとむせる」
「食事中に咳が出る」
「以前より飲み込むのに時間がかかる」
こうした変化にも注意が必要です。
食べ物や飲み物を口から喉へ送り、さらに食道へ安全に運ぶためには、舌や喉など多くの器官が協調して働く必要があります。
加齢に伴って口腔機能や摂食・嚥下機能が低下することがあり、厚生労働省も、高齢者では硬いものを避けたり、摂取する食品が偏ったり、食事量が減少したりすることがあるとしています。 (厚生労働省)
「むせる=すぐに危険」というわけではありませんが、頻度が増えている場合や、食事に時間がかかるようになった場合には、一度歯科などで相談してみることをおすすめします。
⑥ 入れ歯も変化する
「入れ歯は昔作ったものだから大丈夫」と思っていても、口の中は少しずつ変化しています。
歯ぐきや顎の骨の形が変われば、以前はぴったり合っていた入れ歯が動きやすくなることがあります。
入れ歯が合わないと、痛みが出るだけでなく、噛みにくい、食べにくい、会話しにくいといった問題につながります。
「入れ歯だから仕方ない」と我慢するのではなく、調整できる場合がありますので、気になることがあれば歯科に相談しましょう。
口の変化は「食べること」の変化につながる
高齢者の口腔内の変化で大切なのは、一つひとつの症状だけを見るのではなく、「生活全体とのつながり」を考えることです。
歯が減る。
↓
噛みにくくなる。
↓
硬いものを避ける。
↓
食べられるものが限られる。
↓
食事量が減る。
↓
体力が落ちる。
↓
さらに口の機能が低下する。
このような悪循環につながることがあります。
厚生労働省も、口腔機能の低下は栄養状態やフレイル、サルコペニアなどとの関連が指摘されているとしており、口腔の健康を維持することは全身の健康や生活の質を支えるうえでも重要です。 (健康日本21アクション支援システム)
だからこそ、「歯が痛くなったら歯医者」だけではなく、「食べにくくなった」「むせるようになった」「口が乾く」「滑舌が変わった」といった小さな変化にも目を向けることが大切です。
「年齢のせい」で終わらせない
高齢になると、口の中にはさまざまな変化が起こります。
しかし、そのすべてを「年齢のせいだから仕方がない」と考える必要はありません。
歯を治療する。
入れ歯を調整する。
口腔ケアを行う。
唾液が出やすい環境をつくる。
舌や口唇を動かす。
食べ方や姿勢を見直す。
できることはたくさんあります。
そして何より大切なのは、その方が「これからも何を食べたいのか」「どんなふうに暮らしたいのか」を一緒に考えることです。
口は、単に食べ物を入れる場所ではありません。
食べること、話すこと、笑うこと、人とつながること。
そのすべてに、口は関わっています。
私たち、たのしみ歯科は、口の中だけを見るのではなく、その人の生活を知り、「食べる」ことからその人らしい暮らしを支えていきたいと考えています。
「最近、少し食べにくくなった」
そんな小さな気づきが、口腔機能を守る大切な一歩になるかもしれません。
ごはんがたのしみな毎日を、これからも。
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